審査講評
テーマ:「建築緑化」
審査員/藤森 照信 氏
これまで私が考えたこともないような案を期待して審査を始め、気持ちは上がったり下ったり。少しでも未知の提案が現われると上がり、卒業設計の審査などで見たことのある提案だと下る。
上り下りを繰り返しながら全113点を見終わり、一安心。このレヴェルなら“入賞ナシ”は避けられる。一休みしてからもう一度見直し、上位作10点を選び、さらに見直して、最優秀賞を林案に決めた。
土が地面から伸び上り、その上に樹が生えるというアイディアは他にもあったが、林案が一番素直で視覚的にも美しい。建築緑化の最大の難点となる漏水も心配ない。
優秀賞の田山案は、ちょっとした思い付きとも見えるが、実際にやられた例はなく、どこか駅前の両開発でやってみたら面白い。樹を幹と枝葉に二分し、それぞれに合った建築空間を提案したのは秀逸。
同じく優秀賞の堀次案は、実際にはあり得ないが、あり得てほしいと思わせるところが素晴らしい。イメージと言葉の力で勝負するのは学生の特権。
準優秀の平川案は、緑と建築の織りなす楽しいイメージに引かれた。喫茶店かレストランかと思ったが、住宅なのは意外だった。
準優秀の猪邉案は、一本の直立する樹を御神木のようにして住宅に取り込もうという提案で、よくあるアイディアにちがいないが、古民家を使った泥臭さが、樹とよく合う。建築緑化というと、どうしても樹がオシャレっぽく扱われる中で、異彩を放つ。
準優秀の額賀案は、コンセプトをそのまま建築とした大胆な提案となっているが、下の空間で暮らすのはおそらくウットウシイにちがいない。
奨励賞の小林案は、構造的にはそうしなくてもと思ったが、視覚的には建築と樹の関係はなかなかいい。ライトが審査員なら最優秀に選び、素早く自作として実現しただろう。
奨励賞の安田案は、最優秀の林案と緑化のコンセプトでは似るが、住宅としては自閉的に過ぎ、どっかに抜けがほしい。
奨励賞の大和田案は、前例のない提案であった。校木が風化するとどう見えてくるか、実際に見てみたい。
奨励賞の田中案は、今回のコンペで一番大胆な提案であった。樹が建築を食い尽くすイメージが学生の間に芽生える時代に突入したのである。21世紀の建築はこの先どうなるのだろう。
Profile
藤森 照信
建築家。1946年長野県生まれ。
東北大学工学部建築学科卒業。2010年東京大学名誉教授に就任。
1997年建築作品「赤瀬川原平氏邸(ニラ・ハウス)」により日本芸術大賞。自邸(タンポポハウス)なども話題になる。
1998年「日本近代の建築・都市の研究」の一連の論文により日本建築学会賞、2001年には建築作品「熊本県立農業大学校学生寮」により日本建築学会作品賞を受賞。
主な著書は、「明治の東京計画」毎日出版文化賞(1983年)、「建築探偵の冒険 東京篇」サントリー学芸賞(1986年)他。
主な建築作品は、「熊本県立農業大学校学生寮」日本建築学会作品賞(2001年)他。
2009年一連の建築活動により「第5回円空賞」受賞。