審査講評
テーマ:「新しい風景」
審査員/妹島 和世 氏
私達はここ十年くらいでいろいろなかたちの新しい技術を手に入れたと思います。それは、以前には考えられなかったような様々なコミュニケーションを可能にし、ただ同時に、それはある意味でより不自由な社会を作り出すという側面も持っていた、と言う事も出来ると思います。新しい技術は、もっと自由な、多様な関係性を生み出すことが出来ると思いますし、そういう新しく多様な関係性は、新たな風景を生み出すはずだと思います。
優秀案を2つ選びました。岩倉君の「貝殻の島―牡蠣の廃殻を利用した人工島の計画」のドローイングに惹かれました。絵から瀬戸内海の穏やかさ、ゆっくり流れる時間が感じられました。瀬戸内海の島々の間に廃殻の島が生まれ、静かに形を変えながら消えていき、海に戻っていく。そういう循環の時間と瀬戸内海の時間の共存から、未来的な風景を感じさせられました。もう一つは、大峯君の「生活域を広げること、重ねること」です。大峯君が言うように、これからの町には、空き家が増えることと思います。車道でがんじがらめになってしまった町が、空き家を間引きすることにより道でもあり、広場でもあり、庭でもあるような空間の中に現れ、かつ、人々が複数家を持つことで、新しい家族、或いは集合を作り出していくことは、とても興味深いと思いました。
佳作は9点選びました。山嵜君の「海に囲まれたまちと大きな中庭」は敷地の選び方が秀逸だと思いました。それほど大きくも小さくもない島、横浜瑞穂埠頭の外周を一枚の屋根でくるんで、内側を森にする。建物が防風林の役目も果たします。この計画は、この島が一つの建築とも言える全体性を持ちながら、同時に、海や森を取り込み、どこまでいっても全体が変わり続けて完成しない計画であることが面白いと思いました。佐藤君の「雨のつなぐ街」も魅力的な提案だと思います。この案も大峯君と同じように、車道でネットワークされている現在の住宅地についての提案だと思いますが、気候という大きな自然環境に寄り添ったものに出来ないかという提案です。雨の水道が作られ、所々に雨降りの後現れる池が作られるだけで、人々の集まり方は変わるであろうし、既存の住宅地は柔らかなものとして雨が降るたびにたち現れるのでしょう。既存の風景に少しだけ手を加えるだけで、全く異なる空間、風景を生み出すことが出来る美しい提案だと思います。髙城君の「魔女たちの料理人」の異常な大きさの屋根をかける提案も面白いと思いました。多少ワンアイディア的ですが、もはや、建築のスケールを超えてしまった大屋根は、都市のインフラ的であり、ただし全体的なものでない自由さが、大きさの住宅のような、集合住宅のような、或いは小さな町のような建築のような、今までにない、いろいろな集合のしかた、集合のスケールを生み出すのではないかと思いました。その他の案も、ある具体性をもとに、まじめに飛躍のある提案がされており、好感を持ちました。いろいろなことを考えるチャンスをいただきました。
これから私達はどのようにみんなで集まれるのか、どのような生活を送るのか、その時建築はどうあるべきなのか、いろいろな人が考え続けることが大切だと思います。
Profile
妹島 和世
1956年茨城県生まれ
1979年日本女子大学家政学部住居学科卒業
1981年日本女子大学大学院修了
1981年
~87 年伊東豊雄建築設計事務所勤務
1987年妹島和世建築設計事務所設立
1995年西沢立衛とSANAA設立
2011年より東日本大震災復興のため、4人の建築家とともに「帰心の会」としての活動も行っている。
[主な作品]
2003年ディオール表参道(東京)*
2003年梅林の家(東京)
2004年金沢21世紀美術館(石川)*
2007年ニューミュージアム(ニューヨーク・アメリカ)*
2009年ROLEXラーニングセンター(ローザンヌ・スイス)*
2010年犬島「家プロジェクト」(岡山)
2011年JR日立駅舎と自由通路(デザイン監修)(茨城)
2012年ルーブル=ランス(ランス・フランス)*
[主な受賞]
1998年日本建築学会賞*
2004年ヴェネチアビエンナーレ
国際建築展金獅子賞(イタリア)*
2005年ロルフショック賞(スウェーデン)*
2005年第46回毎日芸術賞建築部門*
2006年日本建築学会賞*
2006年芸術選奨文部科学大臣賞美術部門
2007年王立英国建築家協会
インターナショナルフェローシップ(イギリス)
2009年
2010年藝術文化勲章オフィシエ(フランス)
プリツカー賞*
*印は妹島和世と西沢立衛との共同設計(SANAA)として