審査講評
テーマ:「透明な家」
審査員/安藤 忠雄 氏
「透明性」という、建築ではある意味語りつくされた感のあるテーマに対して、予想以上に多くのアイデアが集まったのは驚きだった。中には突拍子のないものもあったが、若者ならではの斬新なアイデアも数多く見受けられた。惜しむらくは、実現性の高い案が極めて少なかったという点。テーマを透明な「家」としたのは、抽象的なアイデアに留まらず、あくまで住む為の機能を持った「住宅」を提案して欲しいという思いがあったからだが、透明性というアイデアを追求するあまり具体性を欠く作品が多く、それらの評価を下げざるを得なかったのが残念だった。
しかしそんな中でも賞に選ばれた作品は、いずれも刺激に満ち溢れた、新鮮な案が揃っている。
大賞となった小野志門君による作品は、「透明性」の解釈が極めてユニークで、その独自性を評価した。他の多くの作品が「透明=可視性」と捉えていたのに対し、この案では建築の物理的な存在を文字通り「消し去る」ことに執心している。既存の住宅建築の、図と地を反転することで「透明に残す」アイデアである。大変詩的で、寓意性に富んだ建築空間の提案であるとともに、建築や都市の記憶を継承するという意味では、時間を超えた透明性をも獲得している。透明というテーマを2重3重に包括した、大賞の名に相応しい案と言える。欲を言えば、出来上がった空間を、単にアートやオブジェのように哲学的体験を目的として利用するのではなく、建築として機能させるとすればどのような方法があるか、一例でも示して貰えれば、提案がより具体性を帯びたのではないかと思う。
長島薫君の案は、大賞案とは対照的な、素材としての透明感、建築の可視性を追求したもの。他の類似案よりも秀でていたのは、マジックミラーという特殊な皮膜を用いることにより、昼と夜で全く違う性質の透明性を獲得するという点だ。実現可能性としては厳しいが、光の変化に伴う透明性の移り変わりと日常生活のサイクルをリンクさせようという意欲的な試みを評価した。
他の作品の中にも荒削りながら、何か新しいものを創造したいという気概に満ち溢れたものが多くみられ、私自身大いに刺激を受けた。若者は既成の価値観に縛られることなく、常に瑞々しい感性で時代を切り開いていかなければならない。その為に不可欠な創造力を養うという意味で、このデザイン賞は大変意義あるものだ。今回賞に選ばれた人も、残念ながら選外に漏れた人たちも、今後ももっともっと考えるトレーニングをして、感性を磨く努力を続けて欲しい。