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大賞
shadow tracing on desert
岩下 昂平
東京工業大学大学院 建築学系
乾燥帯に位置する砂漠で物語は始まった。
最初はひとりの家だった。住人は家が跡形もなく失われることを恐れた。この家がここに在る証は、地面に映る自身の影しかなかった。住人は、そこに居た記憶を残すために、影のかたちを象り始める。
水辺に行き、泥や藁を混ぜて日干し煉瓦を作り、決まった時間に影をなぞるように積んでゆく。できた壁はまた影をつくり、この手作業は続いてゆく。
太陽や月、大きなリズムに合わせて、あるときは午後に、今度は朝に、寒い夜も月の光を頼りに煉瓦を積んだ。
やがて建てられてゆく煉瓦の壁は、木々や動物たち、オアシスや遊牧民の集団を横断してその領域を拡大していった。
おそらく初めの住人はもう亡くなっているであろう。その家も崩れかけている。
砂漠に遺るのは、巨大な影絵だ。建築の形象、そしてその営みの記憶である。
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