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研究報告要約

調査研究

2-114 山田 宮土理

目的

土は地球上のどこでも存在し、枯渇の心配の少ない資源である。水を含ませることで可塑性をもち、様々な形状に成形することができる。乾燥固化しただけの土は水に溶かせばもとの土に戻り、資源循環性を有する。また、吸放湿性性能を有し、快適な室内環境の形成が可能である。

 地球環境問題が深刻化し、室内環境の快適性も益々求められる現代において、土は活用すべき上記のような利点をもっている。日本では古来より、主として土を塗り重ねた「小舞土壁構法」が用いられてきた。この構法は木造軸組の柱間を充填する壁構法として優れた構法であるが、手間がかかることに加え、経験・技能を有する左官職人の減少によって現在では高級な壁構法となっている。また、工程間での乾燥に長時間を要し、工期が長い。海外では湿った土を積んだ「土積み構法」やブロック状に成形した土を天日干しした「日干しレンガ」、レンガの製造工程で作られる焼成前のレンガ「グリーン・ブリック」(図1)など、幅広い使用方法が存在しているが、いずれも組積構法であり、地震多発地域である日本には馴染まないものが多い。一方、ブロック状にユニット化された土を用いることで、特殊な職人技術が不要となり、現場での作業が減って工期の短縮が可能である。特に未焼成レンガ「グリーン・ブリック」を用いる事が出来れば、焼成前であるため製造によって排出されるCO2は少なく、焼成によって失われる土の資源循環性や吸放湿性を活かすことができる。土の練り混ぜや成形を手作業で行うと重労働であるが、レンガの製造工程では原料粘土を真空土練機で練り混ぜ、押出し成形しており、機械化によって高い生産性と精度が実現されている。

 そこで本研究は、未焼成レンガを現場で容易に「取り付ける」ことのできる構法を開発することを目的とする。

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図1 グリーン・ブリックを用いた建築の例(ドイツ、設計:Gernot Minke)

内容

 研究の項目は以下の①~④である。

 

①未焼成レンガの加工による「取付け可能な」構法の考案

 未焼成レンガは押出成形の際の成形枠の工夫などにより様々な形状を作製できる。このような未焼成レンガの形状の工夫や、取付けのための材を検討することにより、内装用建材として取付けが可能な構法を考案した。

 

②構造安全性に関わる材料物性の測定

 材料の基礎物性として未焼成レンガの圧縮強度を把握するとともに、内装仕上げとして取り付けた際に問題となる脱落に対する抵抗力として、面外方向の外力に対する未焼成レンガ取り付け部のせん断強度を測定した。また、圧縮強度およびせん断強度に対する静置した湿度環境の影響を検討した。

 

③経時変化により未焼成レンガに生じる変色に関する検討

 未焼成レンガには、古い土壁に経年で生じる変色現象(「錆び」と呼ばれる)と類似する現象がみられ、経時により変色が生じる。焼成するとこの変色と無関係に焼成色が得られるため、通常は意識されることはなかったが、未焼成レンガを使用する場合には、この変色を活用もしくは抑制する方法が求められる。古い土壁の変色を「風合い」として愛でるように、未焼成レンガも年月を経て変色が生じることに価値づけをすることも可能と考えられる。

 変色現象を活用あるいは抑制するためには、変色物質の特定と、変色メカニズムの解明、ならびに促進もしくは抑制の方法を検討する必要がある。そこで本項ではまず、変色物質の特定を行った。

 

④実建物への適用による施工および仕上がりの状況

 未焼成レンガを用いた内装仕上げを実建物の内装仕上げとして適用し、実際に施工を行った。実建物の施工を通じ、開発した構法の施工性や仕上がりの状況を確認した。

方法

①未焼成レンガの加工による「取付け可能な」構法の考案

 レンガ工場で押出成形されて間もない未乾燥のサンプルを取り寄せ、実際に手加工を繰り返しながらユニット形状を検討した。また、木造を想定した木製フレームを作製し、ユニットを取り付けて試作壁を繰り返し作製した。また、提案したユニット形状がレンガ工場の押出成形で量産可能かを検討した。

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図2 試作繰り返しの様子

②構造安全性に関わる材料物性の測定

圧縮強度試験およびせん断強度試験を行った。圧縮試験は、未焼成レンガから約30×30×60hmmの試験片を切り出して行った。せん断試験は、未焼成レンガユニットの取り付け部となる端部の二面せん断試験を行った。試験片は湿度環境の異なる恒温恒湿槽内(20℃30%RH、20℃60%RHおよび20℃90%RH)で恒量になるまで静置してから実施した。

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図4せん断試験の様子

図3圧縮試験の様子  

③経時変化により未焼成レンガに生じる変色に関する検討

変色物質を特定するため、愛知県産の土を用いたO社製およびM 社製の変色のみられる未焼成レンガを対象とし、色測定およびXPSによる元素組成分析と化学結合状態分析を行った。XPSとは、表面数nmに存在する元素 (Li~U)に対し、定性・定量分析のみならず、材料の特性を決める化学結合状態分析ができる手法である。

④実建物への適用による施工および仕上がりの状況

 未焼成レンガを用いた内装仕上げを、実建物において適用した。適用したのは地上2階建ての木造住宅における壁面3面(施工面積6.8㎡、4.4㎡、および15.2㎡の合計26.4㎡)である。施工手順をまとめるとともに、施工に要した時間等を算出し、ユニット化した土を現場で乾式的に取り付ける構法の利点と課題点を考察した。

結論・考察

①未焼成レンガの加工による「取付け可能な」構法の考案

アルミH型材を、下地を介して柱・間柱にビスで打ち付け、2本のアルミ材間に非焼成レンガをはめ込む構法を考案した。未焼成レンガの破損や脱落を防ぐために、未焼成レンガの上端とアルミ材との間に隙間を設けている。未焼成レンガには、アルミ材が露出しないよう覆い隠す突起を設けており、また、未焼成レンガの製造時のゆがみを目立たなくするため、あえて上下で厚さの異なる未焼成レンガを作製した。

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図5 考案した構法の様子と断面図

②構造安全性に関わる材料物性の測定

 圧縮強度は1.6~4.4N/㎜2(20℃60%RH環境下の場合)であり、湿度が高くなるほど小さくなる傾向が確認できた。その一方で、20℃90% RHと高湿度の場合でも、従来の小舞土壁に用いる壁土と比べて大きい強度が確保できることが明らかとなった。せん断強度は0.25~0.47N/㎜2(20℃60%RH環境下の場合)であり、高湿度の場合のほうが圧縮強度が小さくなる傾向が確認できた。一方、高湿度環境下におけるせん断強度の下限値に対しても、地震時に生じる加速度に対して十分に安全な値を得ることができた。

③経時変化により未焼成レンガに生じる変色に関する検討

 色測定とXPSによる元素組成分析・化学結合状態分析を行った結果、各試料の明度L*値とMn含有率との関係に層間がみられ、土塗り壁の「さび」現象と同様に、マンガンが変色と関係することが明らかとなった。また、変色の原因物質はMnの何らかの酸化物であると推定できた。

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図6 明度とMn含有率の関係

④実建物への適用による施工および仕上がりの状況

 実施工により、作業内容と施工に要した時間、ならびに仕上がりの状況が明らかとなった。素人のみで施工を行ったが問題なく容易に取付けが可能であった。

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英文要約

研究題目

Interior wall finishes using unfired bricks

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

山田宮土理

早稲田大学理工学術院 准教授

本文

Earth is a resource with little concern for depletion, and earth that has just been dried  has resource recycling properties. It also has moisture absorption and desorption properties, making it possible to create a comfortable indoor environment. In this day and age when global environmental problems are becoming more serious and indoor environmental comfort is increasingly required, earth has the above advantages that should be utilized. In Japan, the plastered wall construction method has been used, but there are issues such as the construction period and the need for advanced technology.

 In this study, we considered the possibility of using unfired bricks as an interior finish. Since the bricks are unfired, they emit less CO2 during manufacturing, and the recycling of resources and moisture absorption/desorption properties of the earth, which are lost during firing, can be utilized. In addition, it is possible to achieve high productivity and accuracy by utilizing the facilities of existing brick factories. In this study, we developed a construction method that allows unfired bricks to be easily "installed" on site. The mechanical properties of the unfired bricks were also measured to determine their safety against falling out. In addition, we identified the substance responsible for the discoloration phenomenon that occurs in unfired bricks. Finally, we applied the unfired bricks to an actual house to verify the workability and finish.

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