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研究報告要約

調査研究

4-116

目的

加嶋 章博

(1)初期近代および近代都市計画の連続性
 申請者は、初期近代の時代以降、既に多様性の創造という目標が都市の計画に芽生えていた、という仮説を立てている。これを象徴するのが、スペイン近代都市計画の源流、すなわち植民地時代の都市計画手法である。申請者は、スペインにおける初期近代および近代都市計画思想の連続性、ならびに、その都市計画の源流に「多様性の創出」という概念が読み取れるという視座を描いている。
本研究は、「都市計画」や「グリッド」という概念や言葉が未だ確立していない初期近代におけるスペイン都市計画の源流において、多様性の創造という特徴があることを明らかにするものである。

(2)「多様性の創出」という視点
 スペイン都市計画の源流とは、16世紀国王フェリペ2世の植民地の都市計画法をはじめとする都市計画の手法である。申請者はこれまで、主要広場を据えた都市核により都市の求心性を保つ計画技術の存在を明らかにしてきた。本研究では、そこからさらに、都市におけるとくに小広場の役割や広場の分散配置のあり方、それによる都市空間への影響を考察することを目的とする。

(3) 小広場の分散配置と都市の多様性創造
 16世紀スペインの都市計画手法には、小広場を都市に分散配置し、そこに教会や市場を隣接させていくことで、都市に多様性のある「界隈」を生み出そうとする視点が読み取れる。初期近代の都市計画手法に、多様性の創造という視点を導入する点は本研究の独創性かつ大きな役割といえ、ヨーロッパ近代都市計画史の更新という波及効果も見込まれる。

内容

 本研究では以下のStage (1)〜(3)の流れで、スペインにおける初期近代以降の小広場の都市計画眼差しを考察し、小広場の現代的意義を考察する。

Stage (1) 初期近代スペインの都市における「小広場」への都市計画的眼差し
スペイン初期近代の16世紀は、都市計画という概念はまだ確立していなかった。しかし、スペインでは、海外の植民地経営が展開する時代であり、数多くの都市建設や都市整備を実践していった。そこでは、広場は重要な要素として取り上げられることが多く、その計画手法に着目する。そうした都市や広場の計画手法は、植民地における都市整備の法規範として定着していったことから、都市計画の手法は標準的なものへと発展し、本国から植民地へと伝播するとともに、本国内にも浸透していった。そうした都市計画の法規範に掲げられた都市整備手法や広場の計画手法の特性を本研究では抽出する。
 本研究では、都市空間の整備について文言により規定した法規範等が示す内容をテキスト資料と呼んでいる。 さらに、初期近代、16世紀以降の都市整備の状況は、都市図や都市計画図に示された当時の都市空間の状況から一定把握することが可能である。それらには、都市の全体像、街区の規模・形状・配置、規模、道路の幅員、広場の配置や形状、附随する施設が把握できるものがある。本研究ではこれらをイメージ資料と呼ぶ。
 したがって、Stage(1)での作業目標は、スペイン初期近代の都市計画手法について考察する史料の選定とカルテ化を行うことである。ここでは、都市整備や小広場の計画特性が読みとれる法規範や各都市の都市空間の事例ごとにカルテ化を行った。

Stage (2) 小広場の計画特性の抽出と図式化 
 都市図や都市計画図などのイメージ資料からは、都市形態や都市空間構造を直接掴み取ることができる。Stage(1)で得た資料を対象に (1)広場の階層化(主要広場と小広場)、(2)配置計画(小広場および主要広場)、(3)都市施設の併設(広場に併設される宗教施設や行政施設等)、(4)活用形態(経済、宗教、政治活動等)などについてその特性を抽出する。広場や道路などの都市施設の配置の特徴や都市施設の周辺施設、小広場の具体的な計画意図を分析し、都市における小広場の特徴を考察する。
一方、都市整備に関する法規範は、基本的にはテキスト資料である。それらは計画の全容を説明し得るものではなく、計画の概要や考え方の方針を示すに留まるものなどもあり、解釈はわかれる。そこで、テキスト資料が指す意味を取り出し、図式化し、いわばイメージ資料に置き換える。そこからあらためて都市空間整備としてどのような方向性が汲み取れるのかを考察する。
 Stage(2)では、初期近代のスペイン都市を対象に、テキスト分析とイメージ分析の両方から、都市に多様性を創出する小広場の役割と計画手法を明確化する。

Stage(3) 近現代における小広場の役割についての考察  
 スペイン近代における都市計画においては、小広場が明らかに計画されていく。旧市街の外側にグリッドパターンによる街区が展開するスペイン近代都市計画を象徴するバルセロナ市の都市拡張計画とその実践(19世紀半ば)における小広場に着目し、その計画特性について検討する。また、小広場の存在意義については、本研究ではむしろ現代の都市空間から現代的意義を抽出することを目的としている。したがって、近世以降に形成された小広場(本研究では、ジローナ市の都市空間を事例とする)が、現代においてどのように利用されているかを、今日的な活用状況から把握し、都市空間における小広場のあり方やその役割を一定明らかにしていく。
 Stage(3)では、近代都市計画の事例として、セルダによるバルセロナ都市拡張計画(1859)を、現代都市の小広場の事例としてジローナ市の都市空間活用を取り上げ、小広場の役割を考察する。

方法

(1) スペイン初期近代における都市の計画指針
初期近代のスペインにおける都市計画の事例として、海外領土の植民地における新都市建設の事例や制度に着目する。中でも、1573年にまとめられた「フェリペ2世の勅令」は初期近代の都市計画法として知られる、本研究では、特にそこでの広場の計画的意義に着目する。また、同時代の実際の都市空間構成を都市図等の史料から読み取る。

(2) 都市整備のカルテ化
本研究では、都市計画に関するテキストによる記録(テキスト資料)と都市図等の視覚的資料(イメージ資料)の両方に着目し、都市計画手法をどの様に伝えるものかをカルテ化していく。インディアス総合文書館は、膨大な数にのぼる初期近代の植民地の都市整備に関する史料を保有しているが、本研究でも多くその所蔵資料を活用する。

(3) イメージ資料による小広場の特性
 イメージ資料の分析からは、フェリペ2世の勅令がグリッドパターンの都市空間構造を実際に導いていたことが多く観察できる。そこでは、主要広場とそれ以外の広場(小広場)があり、すなわち広場のカテゴリー化が観察できた。
(事例)・1734年のスペイン植民都市キトの都市図(現エクアドル、首都)
・1764年のベラクルスの都市図(現メキシコ、ベラクルス州)

(4) テキスト資料による小広場の特性
 テキスト資料である「フェリペ2世の勅令」においても、主要広場の計画が重要な要素であるを物語っており、既往研究でも数多く指摘されてきた。本研究では、主要広場とは異なる「小広場Plaza menor」の役割に着目する。
勅令においても、広場のカテゴリー化が窺え、小広場は主要広場と一定の距離を置いて配置するものとされ、地区の教会堂などを併設することが求められている。諸規範の内容から、都市内に分散配置される小広場が特徴的な界隈を形成していく核となる、という解釈が読み取れた。

(5) バルセロナ都市拡張計画における小広場の特性
 スペイン近代都市計画を象徴するバルセロナ都市拡張計画(1859)についても、計画した技師セルダが小広場をどのように位置付けたのかについて見ていく。
(i) セルダの小広場
 セルダは小広場について言明していないが、道路幅員あるいは街区の形状の調整により小広場を生み出し、並木を整備したりしている例が観察できた。また、グリッドパターンに対角線状の道路を挿入したで生まれる不整形街区を小広場化している例も見られた。さらに、小広場には教区教会堂が隣接している例が顕著に読み取れる。
(ii) 植民都市計画の応用
 バルセロナ都市拡張計画では、グリッドパターンの都市空間に、教会堂が均等に近いパターンで分散配置され、多くの場合それに隣接して小広場が設けられる空間構成が確認できた。このことは、「フェリペ2世の勅令」が示す小広場の分散配置の手法に極めて近い考え方であると考えられる。
 大著『都市計画の一般理論』(1867)において、著者セルダはスペイン植民地の都市計画手法との関係性についてはわずかに言及するに留めている。しかし、教会堂と小広場の関係と都市内への分散配置に関しては、植民地の都市計画手法との関連が非常に強いといえよう。

(6) 小広場の現代的活用に見られる役割
 ここでは、小規模のジローナ市旧市街全体の広場や道路空間などパブリックな場所を展示会場とする屋外アート事業における空間活用形態から、小広場の役割を考察した。小広場は、都市の中央広場などの主要な場所とは異なり、いわば都市の裏空間に相当する場合が多い。このことは住民の見過ごしがちな分散的に存在する都市空間資源の存在の再認識に繋がるものと推察できる。それは、都市のストラクチャーの理解を促し、市民の都市空間に対するイメージを豊かにするものと考えられる。

結論・考察

本研究の考察により以下のことが導かれた。

■都市施設としての主要広場と小広場:広場のカテゴリー化
 スペイン初期近代以降、都市計画には、主要広場の配置と空間構成が重要な要素であった。さらに、都市の広場は、都市計画施設として大きく主要広場と小広場に分類されていたことが窺える。主要広場は概ね都市の中心に一つ存在するのに対して、小広場は、規模も小さく、都市内に分散して配置される。

■植民都市における小広場の役割
 スペイン初期近代においては、植民地の都市計画において小広場は都市計画の重要な要素であった。都市内に分散配置され、地区の教会堂が隣接する。すなわち、小広場は教会堂前広場として機能したと考えられる。ただし、宗教的役割のほか、市場的役割など、その界隈特有の役割を保有したと考えられ、分散配置された小広場は都市内の多様な界隈の拠点となったことが考えられる。

■バルセロナ都市拡張計画における小広場の意義
 イルデフォンソ・セルダによるバルセロナ都市拡張計画案(1859)においても、やはり明らかに主要広場とは呼べない小広場が随所に分散的に成立している。また、多くの場合、教区教会堂が隣接していることから、小広場と各地区のコミュニティとの関係性は強いことが窺え、結果として、均質的なグリッドパターンの都市構造内に多様な小拠点が分散的に発声している状況が見られる。

■ジローナ市の小広場の存在効果
 ジローナ市旧市街の公共空間を活用した屋外展示イベント時の小広場の活用状況から、都市内の小広場は、隣接する小広場へと来訪者を誘導する可能性が示唆された。都市の表空間にある主要広場とは異なり、裏空間に位置する小広場は、さらなる裏空間に存する隣接する小広場に来訪者を誘導し得る。したがって、小広場は都市の裏空間の小拠点となり得るもので、都市空間構造の把握を助ける役割があることも示唆された。

英文要約

研究題目

Study on the Origin of Spanish Urban Planning
- Creation of diversity through the decentralized arrangement of small squares -

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Akihiro Kashima, Setsunan University, Professor

本文

This study attempted to position plazas in urban planning by focusing on urban planning methods since the early period when the concept of urban planning in early modern Spain was established.
Focusing on urban planning laws and urban construction cases from the Spanish colonial period, we observed the planning characteristics of small squares from the analysis of textual and imagery materials. From the urban planning norms, which are textual materials, the idea of categorizing squares into main squares and small squares was observed. And while main squares are planned in the center of the city and form the urban nucleus, small squares are small and dispersed throughout the city. They often have church buildings attached to them, and may serve as hubs for the development of communities and economic activities unique to each area. The town planning maps also confirm the dispersed distribution of small squares.
As for examples of small squares in modern urban planning, the characteristics of the planning of small squares were extracted from the proposed expansion plan of the city of Barcelona (1859). In this case, many parish churches were dispersed in a grid pattern, and small squares were planned adjacent to them. In other words, the composition of the city planning is very similar to that of the colonial period, with churches dispersed throughout the city, and small plazas adjacent to each of them. The layout of the small squares in Cerda's plan for the expansion of the city of Barcelona has a strong relationship with the colonial urban planning method.
In addition, from a discussion of the role of contemporary small squares, the use of small squares during outdoor exhibition events utilizing public space in the old town of Girona suggested that small squares in the city could lead visitors to adjacent small squares. It was also suggested that small squares could serve as small hubs of various urban spaces and have a role in helping to understand the characteristics of urban spaces.
It can be said that the role of small squares has been strongly recognized in the town planning since the early modern period. This study also suggests that they have been positioned as elements that generate diverse bases in urban space.

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