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研究報告要約

国際交流

3-201

目的

白根 昌和

<展示の目的>
大学で建築を学び,現在は空間アーティストとして活動しています。その目的と意義は下記の通りです。
[展示目的] 以下の三点を目標として展示に臨みます。
①[世界へアピール]ヴェネツィア建築ビエンナーレでは,世界各国のトップクラスのキュレーター,クライアントの目に触れるチャンスが訪れます。展示期間中に作品を積極的にアピールすることで,さらなる展示機会を獲得する気概です。
②[新作の創作]今回は新作を制作するため,構造家やプログラマーと協働して技術的な発展を試みます。
③[代表作群の発展]多くの方から協力を得て,作品の質をワンステップ上げ,畢生の大作を制作します。
加えて,今回の作品は,屋外恒久作品の第一歩としての試みでした。
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[出展した作品の詳細]
作品タイトル:Dance of light
作品サイズ:W1,800 x D1,800 x H2,100 [mm]
素材:フリッパー(ステンレススチール,t-0.3mm),ステンレス製スペーサー,アルミニウムフレーム,ステンレススチール部材類
[出展作品要旨]
「自然との協働」をコンセプトにした「表面を,周辺の自然環境にある「風,光,水面」に呼応する無数の鏡面で覆われた立方体のオブジェクト」を出品した。展示環境が屋外かつ沿岸の公園のため,強風が当初から予想された。構造解析等をおこなった結果,過剰な補強材料が必要であるとわかった。そのため,発想を変えて,懸念要素である「風(力)」を作品の一部に取り込むことで,当初コンセプトを止揚することに成功した。さらに,現代の諸課題の一つである「持続可能性」について芸術の側面から提示/発見することを目的にしたプロジェクト。
下記二点の観点から,作品制作時において留意した点を記載します。
・Inspiration(なぜこの作品を出品しようと思ったのか)
このパンデミックが起きてから、アーティストとして何ができるのかを常に考えてきました。結論として、このパンデミックはいつか必ず収束し、そして世界中の人々に必要なのは「Celebration」であると考えてきました。それでは,どの様なCelebrationが必要なのか?日本の祭事をリサーチする中でとても興味深い民話に巡り合い、この作品のインスピレーションを得ました。
その逸話によると,[日本では古来、水の音や風に揺れる葉の音を大いなる自然の神からのメッセージと受け取り、神に感謝を伝える言葉として奏でたのが雅楽(日本の伝統音楽)の始まり(を創出した。)である。祭りとして,雅楽の起源は太古の祭祀と結びついた歌舞にある。]
この民話の全てが本当だとは思いませんが、この古代人の想像力豊かで詩的な発想が私は大好きになりました。そこで、「他の物と共創する作品」に興味を持ち、「自然との協働」をテーマとして、自然の要素を作品に取り入れるチャレンジをすることにしました。
・Goals:この作品の意味_(Awe:畏怖)
 これまでの私の作品は他者の介入により、絶えず変化し続けることを目指し,そのため鏡を素材としています。
今回の作品は,自己の何かを表現したいというより、むしろ海風、太陽光、そして鏡の持つ魔術的な力を利用して、 私たちの想像を超えた今まで見たことのないものを発見することを目的にした作品を目指しました。作品が風や太陽の光によって,どのような現象が起きるのか、宝探しのような鑑賞方法をしてもらうことを意図しました。

内容

[出展作品要旨]
・statement (個人のstatement)
これまで、他者が介入することによって初めて完成する作品を模索しています。今回の作品は見えない力との協働をテーマとしました。
かつてガウディが重力を用いてフニクラ実験をし、サグラダファミリア教会を設計したことは有名な話です。
私は、自然の中に存在する意外性や即興性、そして偶然性というコントロールできない要素と共にものをつくることを大切にしたいという想いと共に今回の作品を提案しました。
・ 作品コンセプト
無数のステンレス製鏡面仕上げの小さな薄板に,ピクセル状に覆われた1.8m角の立方体の金属の塊。表面の薄板は風によって揺られることで、風流を視覚化すると同時に鏡面に映った周辺の風景を歪ませます。さらに太陽光は回転する鏡面に反射し、光と陰をランダムに作り出します。それはまるで、光がダンスをしているかの様相で
す。この作品はデジタルアートの原理に触発されています。
しかし、実際は非常にアナログな仕組みと構造で構成されています。また、お互いの金属板がぶつかり合うことで発生する金属音は、ある時は騒々しく、ある時は優雅な心地の良い演奏を奏でます。単純な仕組みながらも、自然要素との相互関係から生まれる複雑な様相や現象は、私達に様々なものを想起させてくれます。言い方を変えると、ただの金属の塊だったものが、周辺の影響によって様々に変幻するマジックショーと言えるでしょう。ところで、この作品の作者はだれなのでしょう?この作品をデザインし、組み立てた私であると言えますが、その一方で海風や太陽光とも言えます。なぜなら、この作品の本質は、気流や時間帯によって多彩に変化するその様相、そして鏡面に映る風景だからです。しかも、それは作者の意図でコントロールすることができないものです。
この作品を通して、私は屋外彫刻作品の新しいビジョン(自然観)を提示したいと考えています。
私が目指している理想的な作品は、作家が全てを制御するのではなく,自然との対話をする中でアート作品が完成する。その意図は、これまでの人間中心にした観点ではなく,自然との共同作業で作品を作ることで,作家自身の想像を超えた質を作りたいと考えています。
デジタル/アナログ、パブリック/プラベート、自然/人工物、光/陰、など相反する要素が共存している作品を目指しました。一方で,確かに様々なものがデジタル化されていき、今まで見たことがない美しい物や現象が誕生しています。しかし、たとえ美しさを優先しても、すべて機械に制御されることは重要ではないと考えています。
言い方を変えると世界を別の方法で見るためのレンズ(のようなもの)を作りたいと思っています。ヴェネツィアの目の前に広がる波に揺られる水面と,絶え間ない変化をする作品を鑑賞することで,「私たちが自然と共に生きている」ことを実感できるのであれば,成功の一つです。
・The magical power of mirror(鏡の魔力)
思えば、鏡はその形態や見る者との位置関係によって、左右逆転のみならず、上下転倒や増殖、拡大、縮小、歪曲して見える像を映し出します。人類はこれまで、その鏡の不思議な性質を利用して見えないものを見ようとしてきました。例えば,天体望遠鏡は肉眼では把握することができない天体を下神の力を利用して見ることを可能にしています。今回は自然要素が作品の一部となり、見えなかったものを見える様にする助けとなってくれています。表面をピクセル状の金属板が作り出す風の流れを視覚化する現象は,その一つの例です。

方法

活動の制作体制は下記の通りに行いました。
構想/計画/制作
・アーティスト:KAZ SHIRANE(白根昌和)申請者本人
・プログラマー/幾何学制御,解析:高木秀太氏(合同会社高木秀太事務所)
・構造解析:藤井章弘氏(株式会社AMDlab)
・製作補助:宮川和音氏(金属作家)
金属部材製作工房
・金属フリッパー製作:株式会社ヨシズミプレス(東京都墨田区)
今回の展示のため,2年間で7つのアイデアを制作しました。
下記に,個別のアイデアの内容とアイデアの変遷とその理由を記載します。
①ring (円形の平面形で,ジグザグの壁面に囲われた空間的作品案)_2020/Feb/07
②Prism WALL Ⅱ (既出作品を発展させた案→その後,サウジアラビアで提案することになった)
_2020/Feb/11
③Chandelier(自然の力(重力)を利用し,形態を構成するアイデア→その後,最終的に提案したアイデアのもとになったアイデア,しかし主催者から管理面での不安があるということから却下された。)_2020/Feb/24
④egg(鏡面の凹面に囲まれた空間的アイデア→この頃より,コロナが世界的に蔓延し始めた。その影響から「世界が一転して変わってしまった」という現象を作品化したいと思うようになり,鏡面凹面体を用いて人間が入れる作品を構想した。最終的な図面まで作成し,主催者からも同意を得ていた。しかし,構造家との相談をする中,設置する環境の対風圧をクリアするためには,過剰なアンカーと補強材が必要であるということがわかった。そのため,アイデアを練り直すことにした。)_2020/Mar/20
⑤mobius strip(結果として,このアイデアは他のプロジェクトに発展した。この頃は,コロナ禍で世界中で全てストップしてしまった状況であった。アーティストとしてその状況に対して応えたいという想いが強くなっていた。私のその状況に対しての回答は「希望を持って歩み続ければ,必ず元の世界に戻れる」というアイデアであった。そこで,その状況に似ている形態として,メビウスの輪が思い起こされた。そこで,プログラマーの高木秀太氏と相談しながら,多面体のメビウスの輪を制作するための幾何学解析をゼロから始めました。自身としても,コンセプト,審美眼の観点からも納得いくアイデアであった。しかし,制作費用及び,アンカーの問題に直面した。部材を減らすことや,様々な観点からどうにか予算内にまとめられないか努力をしたが,結果としてアイデアは破棄することになった。)2020/Oct/20
⑥Dance of Light(出展作品。詳細は,上記「活動の内容(付-8)」に記載)
今回の出展作品は,初めての屋外作品でした。
想定以上に検討事項が多く,どのようにアイデアを予算の中でまとめるか,そして実施体制と整えるかは大きな経験となりました。
[作品のアピールの具体的な方法]について記録写真/動画撮影はイタリア人写真家のAntonio Messa氏に依頼し,3日間に渡り撮影を行った。また,現在所属しているaagencyに2名のイタリア人がいるため,彼らを通じて作品をアピールしてもらった。その結果,イタリアの某メーカーの目に止まり,新たなプロジェクトのお話を頂戴することができました。
加えて,展示会終了後の11月下旬にブリュッセルにて,上記⑤のアイデアを洗練させた彫刻作品のオープニングがありました。その後,幾つかのギャラリー,そしてブランドとミーティングをする機会を得た。そこで,話をする中で,今回出展した作品を見たという話を伺い,ヴェネツィアでの展示の影響力を実感しました。今回の出展作品も含めて,将来的にコラボレーションできる可能性の話があり,好感触を得ています。

結論・考察

目的に即した考察/まとめは,下記の通りです。
① [世界へアピール]について
成果:
1. 所属するエイジェンシーを通して,展示期間中にイタリアの某パスタメーカーの目に止まり,新たなプロジェクトの話を頂戴することができた。
2. パリで幾つかのギャラリーやショッピングモール,そしてブランドとミーティングをする機会を得た。そこで,今回の出展作品も含めて,将来的にコラボレーションできる可能性の話があり,好感触を得た。
3. 主催者が作品輸送の遅延に配慮してくれ,個別のオープニング開催することができた。それに伴い,個人のオープニングのポスターが街中に貼られ,想定外のアピールに成功した。
4. 主催者のHPに作品画像が掲載されている。
課題:
・コロナ禍から続き,ウクライナ戦争の影響で想定外の「輸送の遅延」が発生し,多くの迷惑をかけてしまった。また輸送費用の高騰もあり,輸送の対応に多くの時間が割かれてしまった。そのため,展示日数が少なくなってしまったことは課題に残る。不可抗力な部分もあるが,海外でプロジェクトを行うということは,輸送の問題は避けて通れない。また,今後も同様,もしくはさらに世界情勢の影響などでさらに酷い状況になることは予想できる。今後も国際的な活動を継続していくためにも,出展作品の選択肢を多く持つ準備はできるので,今回の経験を糧にしていきたい。
・即時,直接的な次の展示会に繋がる話に展開するためお話は頂戴できなかった。
②[新作の創作]について
現代の諸課題の一つである「持続可能性」について,自身の興味や作品への取り入れ方の一つを発見することができ,自身のこれまでの作品群とは違うタイプの新作を制作できた。持続可能性については,個人的にも興味を持っており,今後,更なる発展をしていきたい。また,事前にプログラマー・高木秀太氏や構造家・藤井章弘氏と幾何学的/構造的解析を行えていたことで危機予想,概算費用の想定をおこなうことができ,問題なくプロジェクトを成立することができた。屋外かつ半恒久作品は自身の想定の数倍以上に検討事項が多く,作品の検証に多く時間を取ることは今後の取り組み方に多く参考になった。最終的には金属作家の宮川和音氏のアドバイスを得ながら万全の体制で制作を行なった。
③[代表作群の発展]について
今回のプロジェクトでは,2年間で7つのアイデアを創出しました。結果として,その作品の一つのアイデアは,ブリュッセルのカンブル公園屋外彫刻作品へと実現され。現在展示されています。この展示についてもキャリアでも大きな一歩となり,本事業を大きな繋がりで見ることができれば,大きな達成であった。
一方,ヴェネチアの作品の質という観点では,外部環境に恒久的に設置するためには長期的に耐えうるか,人が触った時の想定など設置場所や方法にさらなる工夫が必要であると実感した。今後,屋外での作品を増やすことを目指す中,上記の課題をこれまでの屋外彫刻の技術を踏襲するのではなく,自分らしい違う形で提示/模索していきたいと強く思いました。そのためにはこれまで培って来た建築知識やコネクションに協力を得ていくことの重要性を改めて実感しました。
最後に,新たに美術館の展示機会ということに関しては,今の所達成することはできておりません。しかし,今回の展示を通して改めて思ったことですが,個人的には,美術館での展示に拘るのではなく,それよりも,新たな展示場所を開拓していく,そしてそこから生まれるアイデアを展開するようなダイナミックな作家になっていきたいと思いました。きっとその理由は,自身の興味が,世界中が効率化をする中で均質的な都市環境になる中,アートの力を使って都市にコミットし,その場所固有の作品を作りたいという点にあるからだと回想します。そのため,今回の展示のように展示面積を限定した中だと自身の興味やアイデアのドライブがなかなか難しく,最終アイデアに納得するまでかなり苦しかった思いが残っています。

英文要約

研究題目

Venice Biennale Arte 2022, the 5th PERSONAL STRUCTURES

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

name:KAZ SHIRANE (Masakazu Shirane)
artist name:KAZ SHIRANE
belong:KAZ Shirane Studio LLC
position:artist

本文

Exhibition at the 5th Personal Structures Exhibition, organized by the European Culture
Center (ECC) in conjunction with the 59th Venice Biennale International Art Exhibition 2022.
The theme of this year's exhibition was "Reflections.
The work exhibited was an outdoor sculpture with the theme of "Collaboration with Nature,"
"a cube whose surface is covered with numerous mirror surfaces that reflect the wind, light,
and surface of the water in the surrounding natural environment. The project also aims to
present/discover "sustainability," one of the issues of our era, from the perspective of
art.
The following points were achieved. Strong winds were anticipated from the outset due to the
long installation period and the fact that the exhibition was to be held outdoors in a
coastal park. Therefore, by reversing the idea and incorporating "wind (force)," an element
of concern, into a part of the work, the artist succeeded in uplifting the work from the
group of works that had been created so far.

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