研究報告要約
調査研究
3-132
目的
中川 武
申請者(代表研究者)は、1994年より日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JSA)団長として、アンコール遺跡、プラサート・スープラ、アンコールワット最外周壁内北経蔵、バイヨン北経蔵、南経蔵の保存修復事業に携わってきた。2008年よりバイヨン中央塔の構造安定化に取り組むために中央塔基壇基礎の内部構造のボーリング調査を始めた。バイヨン中央塔は、高さ10m内外の三重の基壇の上にほぼ32mの高さを有するもので、仏国EFEOの調査により、従来中央塔は基壇内の地下構造壁により支持されているものと考えられてきた。しかし、JSAの調査によりその地下支持壁が無いことが確かめられ、直接掘り下げることを中断し、電気探索や他のアンコール遺跡の比較調査を進めた。中央堅坑のボーリング調査により基壇内部の版築土層の強度や含水率などの調査を進めてきた。貴財団に申請した助成研究は、この上層をどのように安定補強した上で中央塔を修復するのかが現時点での重要課題となっており、JSAの地盤工学の専門家とその方法について研究することが目的である。
内容
この間のわれわれの研究内容は、『Report on the stabilization of the Central Tower of Bayon -Suvey on the current state of the vertical shaft directly under the Central Tower-』にまとめ、2022年12月15日カンボジア シェムリアップにおいてアンコールの公式会議であるInternational Condination Conference(ICC)Angkorにおいて、中川、岩崎名で発表した。以下内容の項目である。 (1)EFEO repot and cross section drawing
(2)2008-2009 Archaeological Excavation by JASA
(3)2009 JASA Boring Survey at the vertical shaft
(4)2010,2012JASA Boring survey on the third terrace around the vertical shaht
(5)2011-2014 Electrical Exploration
(6)Microtremor survey of the Central Tower
(7)Investigation of the inclination of the central tower
(8)Simulation using 3DFEM Modelの作製
(9)2023年3月5日から4月28日福田氏が現場モニタリングに参加。日本人駐在員石塚、成井、カンボジア人スタッフ20人とともに中央塔堅坑の調査と試掘作業のモニタリングに従事。若い日本人駐在員も含めて、カンボジア人スタッフへのOn the job trainingを兼ねたものとなった。中川は3月9日から11日、および3月25日から30日の間福田氏と同行した。この間の福田氏のreportをもとに日本人駐在員が『Report(20)30 April 2023』にまとめた。
上記(8)(9)が貴財団の助成を主とした活動の成果である。
方法
1)JSAのこれまでのバイヨン中央塔基壇基礎に関する調査研究の成果を整理し、新たな課題を見い出す。 2)他の遺構に関する既応の研究および修復成果の比較研究。 3)日本国内の文化遺産の地盤基礎の構造的補強、修復例を収集し、比較検討する。 4)バイヨンの現場にて、関連研究者に集まっていただき、調査研究と修復方針について協議を重ねる。 残念ながら2019~2022年はコロナのため、日本国内も含めて現場での研究検討会は実質的に予定が立てられず、見送らざるを得なかった。Zoomでの協議は続けてきたが、机上での計画が協議だけでは微妙な技術的課題に対する決断が困難であった。2021年12月と2022年1月に日本国内の事例の検討を重ね、2021年12月ようやく岩崎氏と中川が現地で協議を深め、カンボジア政府当局の担当者とも今後の方針について意見交換を重ねることができた。さらに2023年3月に至り、ようやく福田氏にバイヨン現場に長期常駐の形で参加をお願いし、現地駐在の日本人技術者、カンボジア人スタッフと共同して、バイヨン中央塔の竪坑に対する試掘を進めることができた。
結論・考察
2008年の時点では、1930年代のEFEOの試堀を体験するかたちで約2.5m掘り下げたが、EFEOは約12m掘り下げた結果、中央塔の地下構造壁に関してあいまいな報告しかしていないため、それを確かめるのが我々の第一の目的であった。そして、EFEOが約12m掘り下げた時点で地下水が上昇してきたため、堀さくを中断し、埋め房しルーズなままであったため、埋め房し部分はほぼ強度が0で、今後の保存問題の最大の課題であるといえよう。今回、約1m掘り下げながら周辺地盤のモニタリングを慎重に進めてきたが、今のところ築土層、ラテライト・砂岩の表層の劣化は進行しているものの、強度そのものは劣化していないことが判明した。これらのデーターを総合的に評価し、どの深さまでこのまま掘り下げることが可能か、どの深さからライナープレート等の補強をしつつ、どこまで掘り下げるかを各種モニタリングを継続しながら判断することになると考えられる。
英文要約
研究題目
On the stabilization of the Central Tower of Bayon
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Takeshi NAKAGAWA WaSeDa University Professor Emeritus
本文
Survey on the current state of the vertical shaft directly under the Central Tower ①There is no special foundation structure as piles that support the central tower,and it is directly placed on the compaction soil layer and the laterite layer and sandstone pavement on the soil layer.
②The compaction soil is as strong as soft rock in the dry state,but loses strength in the wet state.
③It is not known whether the cross-sectional shape of the vertical shaft shown in the EFEO drawing is due to the excavation of EFEO in the 1930s,or whether it already existed before that.
④As a result of archaeological excavation and boring surveys,the retaining wall structure of the vertical shaft could not be confirmed.
⑤The backfilled soil in the vertical shaft is practically weak.
⑥It is possible that the weak soil layer had expanded around the vertical shaft by the influence of penetration of rain water and up and down movement of groundwater.