研究報告要約
調査研究
2-126
目的
佐藤 淳
3Dモデリングによる自由形状の設計技術が発達し、3Dプリントなどデジタルファブリケーションが安価で高速になり、実施プロジェクトで活用できる環境が整ってきている背景がありながら、未だフルスケールの建物での実施例は少ない。当研究室では3Dプリントされた樹脂製品から鋳型を生成して鋳造された金属製のモジュールを安価に短期間で製作できることを確認しており、これを建築物のファサードに活用することを提案する。
光の透過性の高い構造としてテンセグリティが挙げられる。テンセグリティ構造を形成する際にテンションロッドやケーブル等の引張材で連結してゆくモジュールは、4点などの一定の接合位置を持ち強度が確保されていれば、形状を独自にデザインすることができることを提案する。形状の自由度の高い3Dプリントであれば多孔質な形状も、植栽を植えることが可能なプランターの機能を持つ形状の製作も容易になり、ファサードの緑化手法としての提案にも繋がるものと期待される。
このような技術で生み出される自由形状は、ナチュラルな光環境を生み出す魅力を持つと考えられる。当研究室ではそのナチュラルさを定量的に分析する手法として2次元パワースペクトルを用いることを提案しており、「木漏れ日」や「せせらぎ」といった自然を表現するイメージから思い浮かべられるナチュラルな様子を幾何学的な模様で再現できることも分かっている。将来的には本研究で開発されたファサードの持つナチュラルさをこのスペクトルで表現することに繋げる。このような光環境の創造はパッシブな熱環境のコントロールにも繋がり、エネルギー消費の軽減による地球環境負荷の軽減にも貢献するものと期待される。
内容
デジタルファブリケーション技術を活用して生成される自由形状のモジュールによって形成されるテンセグリティ構造のファサードを研究開発する。
ポーラスな形状のモジュールを3Dプリンターで樹脂で製作し、これを利用してステンレスやアルミの鋳造により金属製モジュールを生成する。そしてこのモジュールを多数、テンションロッドやケーブル等の引張材で繋いだ、テンセグリティ構造のファサードを提案する。
モジュールには形状デザインの自由度を与え、植栽を植えるプランターの役割を持たせればファサードの緑化手法にも活用できるよう提案する。
モジュールを軽量化するため、形状の力学的最適化のアルゴリズムも提案する。
方法
●モジュール形状のスタディ
立体的な自由形状のモジュールをテンションロッドやケーブル等の引張材で繋いでテンセグリティ構造を形成する方法の1つとして、当研究室で既に提案していた枝型モジュールを参照して、同様の4点を持ち多孔質でさらに植栽用のプランターとしても使用できる形状のバリエーションを提案した。
●ガラス支持機構
ファサード全体がワンウェイでなく2方向にはらむ変形をする場合、ガラス板がタイル状に並べられているとそれぞれ異なる面外変形角が発生するため、モジュールがガラスを掴む部分に集まる4枚のガラスがそれぞれが異なる変形角となることのできるジョイントパーツを開発し、3Dプリントによるモックアップで動作確認した。
●モジュール形状の力学的最適化
枝型のモジュール形状に焦点を当て、構造解析モデルを単純化した上で、幾何学的なパラメーターを「枝分かれ高さ」と「後枝の角度」という2つに限定して力学的最適化を施すアルゴリズムを提案した。
目的関数を「風圧に対するファサード全体のたわみ」「モジュール重量」という2種類を用いた多目的最適化のアルゴリズムを提案した。
●実大モックアップの製作
枝型モジュールの実大でステンレス製のモックアップを3体製作した。
将来的にこれらを取り付ける外枠とテンションロッド類を製作してファサードの部分モックアップを製作することに繋げる。
結論・考察
建築物のファサードのための構造デザインとして、立体的な自由形状のモジュールを引張材で繋いだテンセグリティ構造を研究開発した。
モジュール形状については、基本形とした枝型モジュールを含め同様の4点を引張材で繋げば同様のテンセグリティ構造が形成でき、多孔質で折り重なることにより木漏れ日などのナチュラルさを生み出す可能性があり、さらに植栽用のプランターとして使用できる形状を7種類提案することができた。
ガラス支持機構については、ガラスを掴む部分に集まる4枚のガラスそれぞれが異なる変形角となることのできるジョイントパーツとして、ダンベル型のヒンジを用いる方法を開発することができた。これについては今後、気密性を確保する方法の開発が必要となる。
モジュール形状の力学的最適化においては、枝型モジュールの各枝を1本の線材とする単純な構造解析モデルで表現する方法を提案した上で、幾何学的パラメーターを「枝分かれの高さ」「後枝の角度」の2つに限定し、目的関数を「たわみ」「重量」の2つとして、進化型多目的最適化のツールを開発することができた。恣意的に設定した初期値からではあるが「たわみ」は12%程度、重量は5%程度の低減となる形状に収束する様子が見られた。モジュールは中空でありその肉厚はパラメーターとしていないので今後はこれを最適化していくことによりさらなる軽量化が期待される。
実大モックアップの製作については、本計画内で3Dプリンターの活用によってステンレス製の実大モックアップを3体製作することができた。コロナウイルス感染症の情勢の中で、製作を担当したタイのKINZI社で時間を要し、日本からの渡航ができなかったこと等により、これを組み上げるパーツ全ての製作はできなかったが、今後パーツの製作を進め組み上げることによって施工性、強度の確認に繋げる。また、2次元パワースペクトルによるナチュラルさの分析も進める。
英文要約
研究題目
Development of Optically Natural Façade Reducing Energy Consumption
申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名
Jun Sato
Associate Professor
Graduate School of Frontier Science, The University of Tokyo
本文
Building scale 3D printing has become practical and there is away to cast a metal module using a mold that could be taken from a 3D printed plastic module. Using 3D printing, we can think of creating free and porous modules that provides optically natural environment.
In this research, we suppose tensegrity structure composed of 3D free shape modules connected by tension elements such as tension rods or cables. One of the shape for a module can be branch shape which has 4 nodes for the tensioning elements to connect. We could provide 7 options of the module shape that have much porosity and similar position of 4 nodes including the branch shape. Their shapes are available for vegetation planters as well.
Regarding a joinery at where the module graps 4 glass panes, we could develop the mechanizm of joint piece, where the glass panes can rotate in any angle each other, using dumbbell-shape hinge.
We have developed an algorithm of multi-objective optimization for the module shape. Using a simple FEM sturctural analysis model of a module in which each branch is converted into a beam element, supposing 2 geometrical parameters that are the height of branching point and the angle of the rear branch, supposing 2 objective functions that are deformation against wind and weight of the module, we could provide an optimized shape and an optimization tool.
We could manufacture 3 stainless steel full scale modules in this project. In our next project, we will try to manufacture the rest of parts and build up them, confirm the way of construction, try loading test and survey its naturalness using 2D power spectrum method.