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研究報告要約

調査研究

2-111

目的

塚本 由晴

 高度経済成長期に数多く建てられた公共施設が利用低下や自治体の財政悪化などにより形骸化・負債化する一方で、余暇活動の多様化やSNSなどの情報技術による新しい人の集まりは、再編されたメンバーシップに基づいた地域活動の場を創り出している。こうした人の集まりから立ち上がる脱施設型の場である「クラブ」を特定の関心やスキルを共有するメンバーシップに基づく場として概念化し、それを従来の万人向けであろうとするあまりに地域との連携に消極的になりがちな施設型の公共建築に代わりうる新しいモデルとして提示する。それは行政の管理(公)と個人の自由(私)の間をつなぐ「共」の領域であるローカル・コモンズの原理であり、疲弊する近代の限界を越えて新たな多様性と豊かさを描き出す建築の基盤となるものである。
 本研究はこうした地域のクラブ活動を事例として、どのような「メンバーシップ」がどのような「資源」に対してどんな「スキル」を用いてアクセスしているのかという観点から分析することで、メンバーシップに基づく非施設的な場を理論化し、現代版コモンズ再構築の可能性として提示することを目的とする。

内容

本研究は、現代におけるクラブの実践として、2つの枠組みで事例を収集し、多角的に現代版コモンズの可能性に迫っている。以下、各編の内容を示す。

1.地域資源を活用するクラブの発生・発展過程と共同管理の実態
人々が地域資源に向き合ってきた農林漁業などの生業が縮小する一方、身体を使ったレジャーとして地域資源に向き合う活動が拡大しており、その可能性を広げるべく協同するクラブが各地に組織されている。それらの身体運動を伴う非日常的な行為への欲求は、経済や政治による中枢性とは別種の求心力を持ち、現代におけるコモンズを形成し持続させる要因となりえ、そのあり方は公共サービスを補うものとして共助のネットワークが見直されている現代社会において重要な意味を持つと考えられる。そこで本編では各地の自然環境と関わる活動を定期的に行うメンバーの集まりを『地域資源を活用するクラブ』と呼び、インターネットで発信される情報及び実地調査により、その活動内容とフィールド、拠点、メンバーシップの関係を検討することを通して、クラブの発生・発展過程と共同管理の実態を明らかにすることを目的としている。

2.食の生産流通に関わるクラブの空間的実践
 産地、生産者、栽培方法等、食を支える背景への関心の高まりを受け、都市住民による農作業への参加、有機野菜の買い支えなど、都市と農村をつなぐ活動が各地で行われるようになってきた。こうした活動には、食の生産流通を生産者と消費者の間の顔の見える関係の中で成立させようとするクラブとしての性格を見出す事ができる。持続的な都市農村交流の柱となりうるこうしたクラブではあるが、施設として整備されているとは言い難く、アクセシビリティに課題を抱えている。そこで本編では、該当事例を各地に取材し、その生産流通経路を成立させている作業・場所・メンバーの連携を検討することで、特定の食の生産流通経路を成立させようとする生産者と消費者のまとまりである『食の生産流通に関わるクラブ』の空間的実践の一端を明らかにすることを目的としている。

方法

本研究で扱う2つの枠組みのクラブは、その目的や規模、時代的なスケールなどはバラバラであるが、「メンバーシップ」が「スキル」を用いて「資源」にアクセスするという構造は共通している。

1.『地域資源を活用するクラブの発生・発展過程と共同管理の実態』は、地域にある里山や河川などの自然資源に対し、それを何かしらの形で利活用したいと集まった人々が、間伐や耕作、スポーツなどを通じてアクセスしている。このような構造を維持するためには、メンバーが集い、議論・休憩する、道具を収納するための拠点が必要であり、その拠点はクラブハウスや道具倉庫など、様々な形で見られる。このように『地域資源を活用するクラブ』が様々な「資源」に対してアクセスするために必要な建築は拠点という形で現れていることがわかった。

2.『食の生産流通に関わるクラブの空間的実践』は、産業化され、見えなくなってしまった食の生産流通に対して顔の見える関係性の中で生産流通される食を、生産者と消費者のまとまりであるクラブが、耕作や加工、梱包、運搬などの工程を通じて産業システムに乗らない生産流通経路にアクセスし、維持している。食の生産流通経路とは食が生産者によって作られ、消費者に食べられるまでに、場所から場所へ運ばれ、それぞれの場所で行われる作業の流れのことであり、その作業はクラブが所有している場所や、行政・近隣農家などから借りた場所など多様な場所で行われている。このようにクラブ所有、借りている田畑や加工場、梱包場所等の様々な建築が、『食の生産流通に関わるクラブ』が経路にアクセスするために必要であることがわかった。



このように施設によらない人々の集まりであるクラブという「メンバーシップ」が、どのような「スキル」を用いて、なんの「資源」にアクセスしているのかを観察することを通して、現代において、人々が資源をどのように扱っているのかという現代版コモンズの実践の一端を明らかにすると共に、それを支えるために必要となってくる脱施設型の建築のあり方を明らかにしている。

結論・考察

研究の目的では現代においてクラブを研究することは現代版コモンズ再構築の可能性の提示につながることを示し、研究の内容では現代におけるクラブの実践として2つの枠組みで事例を収集したこと、また、それぞれの内容を示した。研究の方法では2つの枠組みのクラブが【「メンバーシップ」が「スキル」を用いて「資源」にアクセスする】という構造は共通していることを示した上で、それぞれ、何を資源としてどのようなメンバーシップがどのようなスキルを用いてアクセスしているのか、またその構造を支えるためにはどのような建築が必要とされているのかを示した。

以上、本研究で扱った事例には森林整備や自然資源のスポーツへの利用、CSAによる買い支え等様々あるが、資本主義的ではない事例が多くみられる。資本主義的なものは経済合理性を重視した結果、連関が地域の外に預けられ(外部化)、見えないものにしてきたが、ここで扱っているクラブの実践は、地域の事物を連関へとつなぎ込む事によって、地域資源へのアクセシビリティを高め、その維持管理に責任あるメンバーシップを形成している。このことにより現代におけるコモンズの再構築のモデルを明らかにすると共に、その中で建築及び、そのデザインの役割が再定義されうることを示している。


これからの展望として
本研究で挙げたクラブ活動を構成する要素である「資源」、「スキル」、「メンバーシップ」の中で、メンバーシップは変化しやすい。実際に調査した事例の中でも、クラブ活動を通じて都市から里山に移住するなど、メンバーシップが変化したものはいくつも見られた。このようにクラブへの継続的な関わりが、メンバーにどのような変化を与えているのか、また、その変化の障壁となるもの、助けとなるものは一体どのようなものなのかということをさらに深堀りしていきたい。

英文要約

研究題目

Reconstructing the commons through the club activating local resources

申請者(代表研究者)氏名・所属機関及び職名

Yoshiharu Tsukamoto
Professor of Tokyo Institute of Technology

本文

 In Japan, during the Meiji Restoration, the Meiji government tried to raise tax revenue by dividing property rights into private and public rights. It also tried to eliminate any kind of independent, self-governing function that was beyond the reach of political power. As a result, the commons, which had been established through the communal maintenance and utilization of resources, lost their legal status and were weakened.
 The 20th century was an era of more equal access to services as industry spread to every corner of the country, and people began to live at an incomparably higher standard than before. At the same time, people lost the opportunity to access resources directly, as industry was caught between them and local resources.
 In contrast, in the 21st century, it is necessary to once again rebuild the commons, the system of maintenance and management of degraded local resources. A lifestyle in which people participate in such a system on a daily basis would be very different from the lifestyle of the past, in which people went to institutions to receive public and commercial services.
 After the Great Hanshin-Awaji Earthquake and the Great East Japan Earthquake, mutual aid has come up for discussion again, with talk of volunteerism and community support becoming popular.
In this study, we will
1. The Genesis and Development of Co-management in The Club Activating Local Resources
2. Spatial Practices of Clubs Involved in Food Production and Distribution
By collecting, observing, and analyzing the cases in each of the two frameworks, we can see how modern commons are being created for activities suited to future lifestyles, and how the form of commons tied to activities that have continued for a long time is transforming into modern commons in line with social change.

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